メモリアルイヤーに贈る、井上ひさし最後の戯曲
2019年は、2010年4月に没した井上ひさしの没後10年目のメモリアルイヤーです。こまつ座では「井上ひさしメモリアル10(テン)」として、幻の初期作から最後の書き下ろし戯曲『組曲虐殺』まで、綺羅星のような作品を上演いたします。
こまつ座&ホリプロ公演『組曲虐殺』は、プロレタリア文学の旗手・小林多喜二の生涯を、彼を取り巻く愛すべき登場人物たちとの日々を中心に描いた作品です。
一人の内気な青年が、なぜ29歳4ヶ月で死に至らなくてはならなかったのか。
明るさと笑いと涙に包まれつつ、現代社会を鋭く照射する音楽劇をお届けします。
井上芳雄ら豪華キャストが結集!!
今回の再々演は、初演、再演に続きミュージカル界のプリンス・井上芳雄が小林多喜二役を演じます。初演より丸10年を経て、この役に並々ならぬ情熱を燃やす井上の、深みの増した渾身の演技にご期待ください。
そして、多喜二の恋人・瀧子役には新たに上白石萌音が決定いたしました。
高畑淳子、山本龍二、神野三鈴ら初演から本作を支えてきた俳優陣と世界的ピアニスト小曽根真に、若手実力派の土屋佑壱も加わり、激動の時代に翻弄された優しくも切ない人間模様を描きます。
あらすじ
ときは昭和5年の5月下旬から、昭和8年2月下旬までの、2年9ヶ月。
幼い頃から、貧しい人々が苦しむ姿を見てきた小林多喜二(井上)は、言葉の力で社会を変えようと発起し、プロレタリア文学の旗手となる。だが、そんな多喜二は特高警察に目をつけられ、「蟹工船」をはじめ彼の作品はひどい検閲を受けるだけでなく、治安維持法違反で逮捕されるなど、追い詰められていく。そんな多喜二を心配し、姉の佐藤チマ(高畑)や恋人の田口瀧子(上白石)はことあるごとに、時には変装をしてまで、彼を訪ねていく。瀧子は、活動に没頭する多喜二との関係が進展しないことがもどかしく、また彼の同志で身の回りの世話をしている伊藤ふじ子(神野)の存在に、複雑な思いを抱いている。言論統制が激化するなか、潜伏先を変えながら執筆を続ける多喜二に対し、刑事の古橋鉄雄(山本)や山本正(土屋)は、彼の人柄に共感しながらも職務を全うしようと手を尽くす。命を脅かされる状況の中でも、多喜二の信念は決して揺るがず、彼を取り巻く人たちは、明るく力強く生きていた。
そしてついにその日は訪れる…。
多喜二 「ぼくたち人間はだれでもみんな生まれながらにパンに対する権利を持っている。けれどもぼくたちが現にパンを持っていないのは、だれかがパンをくすねていくからだ。それでは、そのくすねている連中の手口を、言葉の力ではっきりさせよう・・・・(中略) ぼくの思想に、人殺し道具の出る幕はありません。」
撮影/宮川舞子