家庭教師アニー・サリヴァンと三重苦の少女ヘレン・ケラーを題材にした「奇跡の人」は、ウィリアム・ギブソンによって戯曲化され、1959年にアン・バンクラフト、パティ・デュークによって初演、その3年後には映画化されて大ヒット、また各国で翻訳されたこの戯曲は60年経った現在も世界中で上演されている不朽の名作。逃れがたい運命で結ばれた二人の女性と、彼女らを取り巻く家族。愛と信頼、闘いと再生…これは、自分自身と闘う人間たちのドラマである。
ストーリー
アラバマのケラー家。アーサー・ケラー大尉(益岡徹)とその妻ケイト(江口のりこ)がベビー・ベッドを心配そうに覗き込んでいる。1歳半の娘ヘレン・ケラー(鈴木梨央)が熱を出したのだ。やっと熱が下がり安心したのも束の間、ヘレンは音にも光にも全く反応しなくなっていた……。
それから5年。それ以降、ヘレンは見えない、聞こえない、しゃべれない世界を生きている。そして、それゆえ甘やかされて育てられたヘレンは、わがまま放題。まるで暴君のように振る舞うヘレンを、家族はどうすることもできない。そんな折、ボストン・パーキンス盲学校の生徒アニー・サリヴァン(高畑充希)の元に、ヘレンの家庭教師の話が舞い込んでくる。誰もがお手上げの仕事ではあったが、孤独で貧しい環境を20才まで生きてきたアニーは、自立という人生の目標を達成するため、初めて得た仕事に果敢に挑戦しようとする。
はるばる汽車を乗り継いでケラー家にたどり着いたアニー。アーサー、そしてヘレンの義兄ジェイムズ(須賀健太)は、余りにも若い家庭教師に疑念を抱くが、ケイトだけはアニーに望みを掛ける。そして、アニーとヘレンの初対面の時。ヘレンはアニーに近づき、その全身を手で探る。それはふたりの闘いのはじまりだった……
キャスト・演出家コメント
■高畑充希(アニー・サリヴァン役)
私は「奇跡の人」という作品が小さい頃から好きで、どんな形でも良いから関わりたいと思っていました。17歳の時からヘレンを2度演じさせて頂いている時に、サリヴァン先生と向き合っていく中で、「サリヴァン先生だったらどんな風に感じるんだろう」と思うことがありました。そうした中で、自分自身が先生の年齢を超え、「サリヴァン先生も演じてみたい」と思うようになったので、今回こうした機会を頂けることは凄く嬉しいです。同時にプレッシャーもありますが、自分なりのサリヴァン先生に、出会えたらいいなと思っています。
■鈴木梨央(ヘレン・ケラー役)
初めての舞台で分からないことだらけですが、ヘレンの心の声や、生きる力を、私らしいヘレンを演じられるよう、全身全霊で臨んでいきたいです。
自分がヘレンという役を通して、またステップアップできるようなお芝居と向き合えることに喜びでいっぱいです。高畑さんをはじめ、皆さんとぶつかり合って素晴らしい作品にできたらなと思います。
■演出家・森新太郎
自分としてはとても珍しいことですが、前回の「奇跡の人」の演出が気に入っています。この作品を抽象舞台で創るのは非常に難しいのですが、我ながら上手く出来上がったんです。結構がんばったな、って(笑)。そして、これも本当に珍しいことなのですが、いつの日かもう一度取り組んでみたいと思ったのも、この「奇跡の人」でした。今回また演出できることを心より嬉しく思っています。
特に、前回ヘレン・ケラーだった高畑充希がアニー・サリヴァンを演じる、こんなに納得のいくキャスティングは他にありません。彼女が演じるサリヴァンを想像するだけでワクワクしてしまいます。ちっちゃい身体で、未知の世界に乗り込み奮闘している“全力娘”のサリヴァンがありありと目に浮かびます(笑)。
4年前驚いたのは、最後のヘレンの「ウォーター!」について「口をこじ開けるように」というイメージを伝えたら、彼女は本当に口を両手でこじ開けて「ア゙ーア゙ー」って何かを出そうとする動きをして・・・。僕が演出したけれど、あの演技は高畑充希の発明なんですよね。僕も思ってもいなかった新しいヘレン・ケラーが出来上がった瞬間でした。彼女の芝居には常に勇気があって、その勇気がサリヴァンと重なるのです。今回も僕の予想をはるかに上回るサリヴァンが出てくる気がしています。
そんな高畑充希のパワーに対抗しなくてはならない、ヘレン・ケラー。これは誰にでもできる役ではなく、歴代、可能性のある女優にしか与えられない役です。透き通るような感性とバイタリティの両輪が必要となります。僕には鈴木梨央さんしかいませんでした。彼女なら、ヘレンの魂の深い深いところまで降りていけるはずと確信しています。溌剌とした2人の女優による、とてもいい組み合わせが誕生しました。